IN THE MIDNIGHT HOUR

そのラーメン屋に行くようになったのは
味はもちろんのこと、日替わり定食４８０円という
とても懐に優しい価格で満腹感にほかならない。
だいたい同じ時間にだいたい同じ席に着くと
だいたい同じ顔ぶれを見かける。
なにやらギターをいじくってる好好爺A、
店主にひっきりなしにしゃべりかけてる好好爺B。

その日は、冷たい雨から逃れるように行った。
前の席でAとBとが膝突き合わせて歌っていた。
ギターとうたA、うた（いっちょかみ）Bの好好爺ユニット。
好好爺Aには惹き込まれるものがあった。
好好爺Bが帰ってからは、
ギターとうたAに店の女将がギターとうたで絡んできた。
好好爺with女将、このハーモニーにぞくっとした。
「震災ん時、作った曲やねん」と云って始めたうたに
重力を失っておぼれていくような感覚にひたっていったのは
感情に直結した制御不能で溢れ出た分泌液が
視界を滲ませたせいだけではないだろう。
指先で煙草の灰がぽとりと崩れ落ちた。迂闊にも染みた。

それから好好爺からギターを手渡された。
このアウェー感を打破するために、何か演らなければいけない。
しかし、ちゃんとバンド組んで演ってた時も
ちゃんとギターを弾けたことも歌えたこともなく、
ここんとこちゃんとギターを触ってもいない。
幸いそのギターの鳴りは抜群に良い。
一発本番ではったりかまして「スローバラード」を演った。
自分のおっちょこちょいぶりを露呈してしまったが
なぜか受入れられた。

店の２階はちょっとしたライヴスペースになっていて
壁にはずら〜と好好爺がリペアした（リペア中）のギターが
掛かっていて、そこで好好爺とギター弾いたり話ししたりして
気付けば２時間３５分くらい経っていた。
雨は上がっていた。

家に帰って、久々に自分のギターを触るとひんやりしていた。
やっぱりちゃんと弾けなかったが、指は熱くて
そのちょっとした痛さがじわあっときて心地よかった。